水溜まり。

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わたしたちは星屑の地平に眠る


真っ白い砂の中に混じる小石をじゃりと鳴らしながら、薄闇に光る下弦の月明かりが照らす平地を、真っ直ぐに歩いていく。そのうちに見えてくる、ゆるやかな勾配の坂道を登ったところにあるバス停で、わたしはヨーロッパ製で、しかも木作りのカエルと待ち合わせをしていた。

カエルは、わたしの脳内に一言、待っているとだけ言った。

月明かりは、気付かない程少しずつ透明に変わっていき、歩いていくにつれ薄闇はどんどんと色濃くなっているようだった。待ち合わせのバス停が立つ坂道にたどり着いた頃には、空は漆黒に変わり、夥しい数の星がそれぞれ、瞬いていた。

坂道を上る途中、地面から小さなミドリ色の芽が出ていたので、カエルにあげようと思いいくつか摘みとった。摘みとった場所からはまた同じように小さな芽が出てきて、辺りには湿った空気が流れ始めている。カエルは既にバス停の下で仰向けに寝転がり、灯り始めた星明かりの宴を見つめていた。わたしはカエルの傍に駆け寄り、同じように隣で寝転がった。


 *


人々が眠りにつく頃、メガストラクチャーから放たれる警告灯の赤い光が空を駆け回っていく。
フォール、ダウン。

 わたしの声が・・届い・てい・ますか?

ぶつ切りの声は夜風に流され、白い花柄のレースが膨らみ、波打つ。幾度も、寄せては返し、少しずつ鈍くなる回路に、言葉を忘れていく。薄雲を照らす赤い光が目の前を横切っていく。またひとつの音が失われたと感じた後に、ひとつの音が生まれた。ごとり。足元を見ると、木作りのカエルが目を見開いてわたしのことを見つめていた。暗闇の中放たれた光の余波に触れ、ダーググリーンなカエルの目の外膜が白く、際立って、わたしを、わたしのことをじっと、ただ、じっと、


 *


銀河の中心付近、天の川の濃度が濃くなる辺りから、サソリの尻尾を目で追った。アンタレスの赤く深い煌きにわたしの胸が震え始めると、カエルはすぐに、南斗六星を指差した後、横へ腕を流した。ひゅっと、一筋の流れ星がアンタレスの煌きと弾けて、天の川のせせらぎに一段と強い光が灯る。

わたしはここで、カエルに恋をした。
表情の無いカエルの顔を何度も愛撫し、はだけた胸の柔肌にカエルの手を寄せた。カエルの手が胸に触れる度、わたしの中で眠る宇宙は少しずつ膨張しそれに呼応するように夜がどんどんと深く、暗くなっていった。夜が暗くなればなるほど星たちは輝きを増し、今では目を閉じることのできない程の光が、手の届くところで溢れかえりわたしとカエルとどこまでも続く地平の果てまでも伸びているのが見える。

わたしはここで、カエルに恋をした。



 * 


窓際へカエルを戻し、小窓を開け放ちレースを開く。流れていく風に、細く透明な糸を流していく。
誰でもない、だれか、夜の向こう岸で待つ人へ、ちいさな声で呼びかける。

「「届い・・て・いますか・ここ・から見える星・はビル・・の明かりで・・今にも消えてし・まいそう・です。」」


 *


カエルは起き上がりわたしの方を向いた。カエルは何も言わずにただわたしの方を向いていた。いつもそうだった。星明かりが眩しい。ねぇ、とても眩しいね。カエルは何も言わない。いつもそうだった。ただわたしの瞳の奥をずっと見ている。星明かりに混じってパルサーの光が空を駆けていく。カエルの顔は木作りでとても肌触りが良い。愛してる。

カエル、あなたはどこへ行くの。カエル、何も言わないままわたしの奥のほうばかり見つめて、ねぇほら星が降り始めているよ。もうすぐ、そこここで朝が湧き上がってしまうよ。カエル、あなたの瞳の輪郭は、いつもとても、美しいね。

カエルはずっと、何も言わない。わたしもずっと、ほんとうは初めから何も言っていなかった。ずっとわたしは、カエルを見つめていた。見つめていた。カエル、まだ朝は来ていないよ。カエル。きっと目が覚めてもまだ、星は眠ったままで、カエル、あなたはわたしの隣で、どこまでも続く夜の底でまた、待っていると、そう呟いて。カエル、きっとまたここで、あなたとふたり星たちの瞬きの中、わたしは少しだけ、眠りについて、カエル。愛してる。あなたの肌の温かさに触れているわたしの温かさをあなたの肌に眠る長い歳月にどうか、刻み付けていてほしい。


 *


風が吹く。
細く透明な糸を辿って、伝わる声に、時間はいつまでも流れない。
わたしは眠ることができないでいる。
もう、ずっと、どこでもないこの場所で。







| 12:46 | 散文 | comments(0) |
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